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気仙茶聞き書きおまけ編~気仙のお茶っこ飲み民俗学~

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「わらじ脱ぎ場」のこと

「どっから来た人が、一番最初に、どっかの家に来てね、その家の世話になるわけ。その人が独立して家建てて分かれるんだけど、その家は、まず一番大事なとこ。自分の本家より。んだから、『わらじ脱ぎ場』を大事にしなさい、って。」(2015.2.25 米崎町内の仮設住宅集会場のお茶っこ会にて)

わらじ脱ぎ場を、「気仙郡語彙集覧稿」で見ると、載っていました。

ワラジヌギバ【草鞋脱場】
①他地方から入ってきた落人が、土着定住する時最初に世話になった家をいう。先祖が草鞋を脱いだ家をいまなお本家として崇め、幾代も親戚つきあいをしている。
②ゼァゴの人が、祭事、市日に出て来た時、休んだり昼食を食べたりする家。(→ハバキヌギ)


でも、米中仮設でお聞きしたお話しでは、本家とわらじ脱ぎ場は、区別しているようです。

「〇〇(ある屋号)が実家の本家だっけね。つけ本家の人達ね。だって△△って(〇〇とは違う苗字だから)。だけんと、旅人みたいだ」

「わらじ脱ぎ場」、と、「つけ本家」、は、同じことなのでしょうか??またお聞きしてみたいと思います。


「だから〇〇では、いっぱいあるがすぺ(たくさんの人の「わらじ脱ぎ場」になっているでしょう)。世話好きな人なんだべね。他所から来た人を世話して、あんだ、ここさ行った方いい、とかね。ここに空家があるとか空地があるから丸太でもなんでも家建てて住め~とか。」

-わらじ脱ぎ場は今でも大事にされているんですか?

「大事だと思いますよ。うちの実家では。何百年もだよ。んだから、何かした場合には、一番上に(上座に)そこの人を。冠婚葬祭の時はね。『わらじ脱ぎ場のだれだれ」とは言わないけども、大体わかるからね、この家のあれなんだなあ、って。苗字が違うから。苗字がそのまんまで親戚づきあいしてるということは、そういうこと」

すごいことですね。何百年も前にお世話になった家を、子孫が今でも大切にお付き合いしているということなのですね。

でも別の方は、また違うお話をしてくださいました。

「この頃、冠婚葬祭も簡素化されて、『どうして苗字違うのに来たんだべ』って。んじゃ、ああいうの、切り捨てましょう、となったわけ、うちでは。昔は冠婚葬祭するには、その人頼らなくちゃならなかったけど、今、何も、お金頼りにして。近代化なってきたもんね。昔のようなやり口ではないもんね。昔のようなやり口では、またちょっとやれないもんね。人数も一杯になるしね。」

確かに、冠婚葬祭を、以前は全て家で行っていたものが、結婚式場、葬祭会館などが利用されるようになり、だいぶ様がわりしてきたのでしょうね。

それでも、ごく最近まで、あるいは、現在も、「わらじ脱ぎ場」を大切にしてきた、という文化には、目を見張ってしまいました。お世話になったことは、何代も忘れない、という義理堅い気質も感じ取れますし、また、親たちが行っていることを大事に引き継ぐという考えも強いのではないかと思いました。
また、一方、何百年も前から、旅人(落人?)が定住するということが、「わらじ脱ぎ場」という言葉が一般的に使われるほどに、多かったのかな、とも思いました。やはり、海を渡ってたどり着いた人々なのでしょうか。あ、陸前高田には玉山金山があり、産金をしていましたね!そこに集まってきた人も、わらじ脱ぎ場にお世話になったのでしょうか。
陸前高田は、以前から、他所から来た人々に対して友好的な土地柄のように感じていましたが、「わらじ脱ぎ場」に象徴されるような、よそ者を受け入れて世話をする、という文化・気質や伝統が、あるのかな、とも思いました。
by kesencha-minzoku | 2015-04-06 07:40 | 人間関係